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高知家庭裁判所須崎支部 昭和38年(家)4号 審判 1965年3月31日

申立人 本田久子(仮名) 外一名

相手方 木下貞男(仮名) 外一名

右両名法定代理人親権者父 木下松男 (仮名)

同母 木下京子(仮名)

主文

被相続人亡木下次男(本籍○○郡○○村大字○○丁一、一五二番地ノ二)の遺産を次のとおり分割する。

一、被相続人木下次男名義の定額郵便貯金債権(証書番号祝定ろはあ○○番及び同○○番の二口座)並びに普通郵便預金債権(証書番号ろろえ○○○○番の一口座)を申立人両名の共有とする(但しその持分は均等)。

二、別紙第一目録記載の不動産を全部相手方両名の共有とする(但しその持分は均等)。

三、相手方両名は連帯して申立人両名に対し、いずれも相続分を超過して相続財産を取得した代償金として、それぞれ一三〇万四、六一七円を支払え。

四、相手方両名は連帯して前記各債務の一〇分の一ずつを、本審判確定の日を第一回とし、一〇年間に毎年その日に、これに対し確定の日から年五分の金員を付し、持参又は送金して支払え。

五、本件手続費用中鑑定人南部忠男に支給した分(金三万円)は申立人両名及び相手方両名の負担とし、その余の調停及び審判費用は各自弁とする。

理由

申立人等は、その父木下次男が昭和二九年六月三〇日死亡したので、被相続人次男の遺産(第一目録記載の不動産、第二目録記載の預貯金その他)について、相続が開始し、申立人等と相手方等とが共同相続人となつたが、その分割について当事者間に協議が整わないとの理由で、昭和三六年五月一〇日調停の申立をなし、当庁昭和三六年(家イ)第一八号及び同三八年(家イ)第一九号事件として係属したが、結局当事者間に合意の成立する見込みがないので、審判事件に移行した。

本件調停並びに審判事件記録添付の戸籍謄・抄本(七通)、住民票抄本(三通)、土地登記簿謄本(六一通)、土地台帳謄本(二通)、家屋台帳謄本(一通)、高知家庭裁判所須崎支部家事審判官より同地方裁判所長宛嘱託書並びに右に対する回答書、鑑定人南部忠男作成の鑑定報告書、徳島地方貯金局長作成名義の「遺産分割調停事件にかかる貯金現在高等の調査についての回答」と題する書面(二通)、裁判所事務官作成の電話聴取書、申立人等各本人及び相手方等法定代理人親権者父木下松男(以下単に松男と略称する)の各審問結果を綜合すれば、以下の事実を認めることができる(右各審問結果中後記認定に反する部分はいずれもこれを措信しない)。

一、相続人

申立人等両名及び松男の父木下次男は、昭和二九年六月三〇日予て不仲の松男(長男)と財産問題に関し口論の挙句○○郡○○村大字○○丁一、一五二番地ノ二の自宅において右松男より殺害されその遺産につき相続が開始されたが、遺言による分割の指定などがないので、後記の共同相続人が法定相続分に則つて、相続をすることになつた。

(イ)  木下久子(後本田伸男と婚姻し、本田姓となる。)被相続人の長女、申立人

(ロ)  木下圭子、被相続人の二女、申立人

(ハ)  木下貞男、被相続人の長男松男と妻京子との間の長男、相手方

(ニ)  木下忠男、同じく二男、相手方

松男は昭和三〇年三月一〇日高松高等裁判所において、尊属殺被告事件につき、懲役八年に処せられ、右判決は同年同月一五日確定し、被相続人次男の遺産につき相続欠格者(民法八九一条一号)となつたので、相手方両名がその代襲相続人(同法八八七条二項)となつた。

二、相続分

被相続人の遺言又は第三者の委託に基く相続分の指定がないので、各相続人の法定相続分は申立人等が各三分の一、相手方等が各六分の一である。

なお松男は、昭和三六年(家イ)第一八号調停事件において、本件相続財産中山林はもとより畑等について、いまだ被相続人の存命中の昭和二一年頃より引続き長年に亘り、植林、補植、その手入など、又は田地、田畑についてはその開墾などに多大の労力と巨額の費用を傾注したので、相続分の算定につき参酌せられるべき旨主張したが、右主張に係る費用の数額を明認し得る証拠はない(仮りに被相続人の生存中、松男がその主張に係る費用を支出したとしても、これは木下家の一員として、その財産の管理、維持、収益の増加の目的などのため、支出されたものと認むべきでありまた相続開始後は松男が相続財産中不動産を独占的に管理、使用して生計を立てたことが認められるから、その管理費用については、協議或は調停による遺産分割の際事実上清算するのは格別、審判において各相続人の具体的相続分を確定する上に考慮すべきでない。右の事情は分割の方法に関し考慮されれば十分であろう。したがつて管理費用については、本件遺産分割の審判とは別個に、相続人間において清算せらるべきである)。

三、相続財産とその現況及び評価額

(1)  不動産

別紙第一目録記載の通りである。(右目録は申立人等の調停申立書添付の不動産目録に記載の物件と合致する。)

なお右不動産中には、登記簿又は土地台帳上被相続人次男の父和男名義(右目録61乃至77の物件)及び兄一男名義(同目録78の物件)のものがあるが、これはいずれも次男が相続したものであるから(和男は大正三年一二月一五日隠居届をなし、その長男一男が即日家督相続をしたが、同五年九月一四日死亡したので、和男の長女で一男の姉である春代が選定家督相続人となつて家督相続ののち、さきに分家していた次男と同年一〇月二八日養子縁組をなし、同年一一月八日隠居し、次男が家督相続した。)被相続人次男の遺産として相続財産を組成すべきものである。

次に右目録2、32、33、71及び72の各物件は、被相続人がその生存中既に他に売却又は贈与したが、いまだ移転登記を了していないことが認められるけれども、これらは形式的には依然として相続財産に属し、これを遺産分割として取得した相続人が、第三者の登記手続請求に応ずべき義務を負担するに過ぎない。但し相続財産を全体として評価し具体的相続分を確定する場合には、衝平の見地から、これらの物件の評価額を加算しないことにする(当事者等も右の諸物件を分割の対象にしないことに同意している)。

さらに松男は当初、昭和三六年(家イ)第一八号調停事件においては、右目録中61、73、77、64、65、66、67、72、74、62、75、76、68、69、70、78、40、41、47、54、3、10、11、16、22、23、24、20、21、13、26、27、28、29、30、31、32、38、44、48、49、51、52、56、42、1、2、25、14、15などの諸物件は、被相続人が隠居をした際松男に贈与せられ松男の単独所有に帰したもの35、37、57、58、53、50の各物件は同じくいづれも二分の一の持分権を贈与され被相続人と共有になつたもの、4、5、6、7、8、9各物件はその代金を被相続人と折半し購入したから、これらは同様被相続人と松男との共有に属し、松男はこれらの二分の一の持分権を有するもので、右は松男の固有財産であつて、相続財産に属しない旨主張したものの如くであるが(もつとも審判に移行後は、当裁判所の審問に際し、被相続人の遺産中不動産は第一目録記載のとおりであることを承認し特に異議を述べない。)、前に掲記した登記簿(謄本)乃至台帳(謄本)にはその旨の記載が存在しないのみならず申立人等各本人審問の結果並びに審問の全趣旨によれば、被相続人と松男とが相談の上その間において、木下家の家産(すべて次男の所有に属する)を区分し、松男がその固有財産に属すると主張する前掲の諸物件を、被相続人が松男をして管理、収益せしめたものと認むべきであるから松男の右主張は採用できない。他に右主張を支持するに足る適確な証拠はない。

右各不動産は、被相続人が既に他に売却又は譲渡したものを除いては、現在松男がこれをすべて占有支配している。相続財産(不動産)中の各々についてその現況、使用状況などについては、第一目録の備考欄及び鑑定人南部忠男作成の鑑定書中に摘示のとおりである(右によれば、松男が植林し、補植し、開墾する等多年に亘つて尽力し来つたことが顕著に認められる。当裁判所もこれを認めるにやぶさかではない)。

右不動産の時価(評価額)は、鑑定人の評価の通りであり、これを相当と認める(なお右は昭和三八年一二月一〇日の時価であるけれども、本件各物件がいずれも所謂山間僻地に存在し、時価の変動の殆んどないなどの事情に照し本審判時においても同一価額であると認める)。しかして評価額の合計は四一五万五、〇〇〇円であるが、具体的相続分を算定するに際し基準となる不動産の評価額の合計は右より前記の如く2、32、33、71、72の物件の価額計五万一、〇〇〇円を差引いた四一〇万四、〇〇〇円である。

(2)  預貯金債権

申立人等の前記申立書添付目録の記載によれば、定額預金二五万円(元金一八万円)、普通預金一万八、〇〇〇円とあるが、徳島地方貯金局長の回答書(二通)、裁判所事務官の電話聴取書によれば、被相続人名義の定額郵便貯金債権(証書番号祝定ろはあ○○番-元金一万円八口、同○○番-元金一万円一〇口)、二口座、並びに普通郵便貯金債権(証書番号ろろえ○○○○番、元金一万八、四七五円)一口座が存在する。しかして右各預貯金債権については、相続人等が現実に自己の取得分を自由に処分し得る状態を生ずるときを基準として、総額を評価計算すればよいから当裁判所は本審判のなされる日即ち昭和四〇年三月三一日をその評価計算の基準日として計算する(本審判が執行力を生ずる時即ち確定の日をもつて基準日とするのが相当であるが、確定すべき日は現在予定できないので、これに近く且つ予定し得る本審判のなされる日を基準日と定め、相続分算定の基礎となる相続財産の総額確定に資することとした)。

右によつて計算すると、右昭和四〇年三月三一日における定額郵便貯金債権額は元利合計三四万七、九〇四円、普通郵便預金債権額は元利合計三万二、三九五円となり、その総計は三八万〇、二九九円となることは計数上明らかである。

なお附言するに、相続債権は相続開始とともに、当然各相続人に分割承継されると解すべきであるけれども、遺産分割の際あらためて右債権を相続人に分配し直し、これと睨み合せて遺産分割による各相続人の取得部分を定めることは、特に本件のような場合にはむしろ当事者双方の利益となり、適切な方法であると考える。

本件各証書は申立人木下圭子が保管する。

(3)  牛一頭

前記申立書添付目録に「牛一頭三万円」の記載があるので考えるに、本件牛一頭は相続開始当時は存在し、相続財産に属したが、松男が前記尊属殺事件につき服役中申立人等がこれを売却し、その代金を被相続人の墓碑購入費用、生活費用等に充当したことが認められる。しかして遺産分割の対象となる相続財産は、分割時現存するものでなければならないので、これは本件遺産分割の対象とはならない(相続人間においても、これを相続財産より除外することに合意している)。

(4)  前記申立書添付目録に「農機具及び備品類七万円」の記載があるので考えるに、相続財産に属する動産類については、その員数を明確にすべき資料がない。且つ当裁判所の審問に際し、申立人等及び松男はこれ等については審判による分割を望んでいない旨を表明しているので、これを遺産分割の対象より除外する。

(5)  前記申立書添付目録記載中、松男が取得したと申立人等が主張する相続財産中の木材売却代金計六三万円について

申立人等の右主張にそう如き証拠としては、申立人本人本田久子審問の結果があるが、これは松男の審問結果に比照し措信しない(仮りに申立人等主張の如き事実が認められるとしても、前記のとおり遺産分割の対象となる相続財産は、分割時現存するものでなければならないから、右売却代金を松男が特に別途保管したことを認むべき証拠がないので、固有財産に混入してその所有に帰し、既に費消されたものと認むべきである。結局これは本件遺産分割の対象とはならない)。

なお右とは別個に昭和三六年(家イ)第一八号事件の調停が進行中、調停委員の示唆により、調停を成立さすため申立人等に手交すべき金員を捻出すべく、松男が相続財産中の一部立木を売却し三九万円を取得したが、調停成立を見ない儘松男が保管するうち、前同様その固有財産に混入して費消されたことを認めることができるが(申立人本田久子は右金額は四二万円であると主張するが、措信しない)、これも前同様本件遺産分割の対象にはならない(なお附言するに、申立人等が松男に対する民法上の損害賠償請求権不当利得返還請求権を有するや否やは、本件とは別個の問題であつて、本件とは別に処理すべき問題である)。

(6)  現金

これは前記目録に記載がないが、松男が前記調停事件において主張したところであつて、申立人等は被相続人の遺産に属すべき現金多額を保管し、これと被相続人名義の預貯金とを合すれば一〇〇万円に達するというが、これを認めるに足る証拠はない。被相続人名義の預貯金債権については前述した。

結局本件遺産には現金は存在しないものと認むべきである。

(7)  小作料

これも前記目録に記載はないが、松男は前同様申立人等が多年に亘り遺産に属すべき小作料を収得したと主張する。しかし乍ら相続財産のうち不動産(第一目録記載のとおり)については、現在は一つとして小作権は附着していない。したがつて収得すべき小作料は存在しない。松男の主張する通り、申立人等において相続開始後の相当期間中小作料を収得したとしても、その数額を明認すべき証拠はない。仮りにこれを確定し得たとするも、前同様申立人等においてこれを別途保管したことを認むべき証拠はないから、申立人等の固有財産に混入し、費消されたものと認むべきであり、現存しないから結局分割の対象とはなし得ない。

結局相続財産の評価額総計は四四八万四、二九九円となる。

四、各相続人の個別事情

(イ)  本田久子申立人、昭和四年九月一一日生、被相続人の長女。○○高等小学校、青年学校を卒業後、○○レーヨン○○工場において約六年間女工として稼動した後、実家に帰り被相続人と同居した。前記の如く、被相続人が昭和二九年六月三〇日松男によつて財産問題の紛争から殺害された事件の目撃者である。したがつて、松男に対しては特に根深い怨恨の情を懐いている。昭和三〇年二月三日現在の夫本田伸男と事実上婚姻(届出は昭和三二年七月二九日)、その間に一男(当七年)一女(当五年)がある。

夫は現在大阪方面に出稼に赴き、毎月約三万円の送金を受けているという(その職業については、久子は配管の臨時工といい、松男は移動製材業を営むと主張する)。結局財産状態については明らかでないが、部落中、中程度の生活をしているものと認める(現在住居する家は夫の兄の所有名義であり、敷地は他人のものであると述べる)。

右申立人は夫伸男とは殆んど身一つで結婚した。本件遺産よりその分割の先取りとして、相当額の持参金等の嫁資を持参したことを認むべき証拠はない。

本件遺産分割に関しては最終的には申立人は相手方等が第一目録記載の不動産を取得しその代償として法定相続分相当の現金を相手方等より支払われることを希望している。

(ロ)  木下圭子申立人、昭和一一年六月一二日生、被相続人の二女。

本籍地の中学を卒業後大阪に出でて工員として働き、被相続人の死亡後は一旦実家に帰つたが、その後高知市内において店員等をした。昭和三一年頃より給仕婦として稼働し、月収八、〇〇〇円位あり、独身である。

松男に対しては申立人本田久子ほど根強い反感、怨恨感を懐いていないことが認められる。

本件遺産分割に関しては申立人圭子も最終的には共同申立人本田久子と同一の希望を表明している。

(ハ)  木下貞男相手方、昭和二三年九月二一日生、被相続人の長男松男とその妻京子との間の長男。

中学卒業後高知市に出で現在寿司屋の店員として働く。

(ニ)  木下忠男相手方、昭和二五年五月二五日生、松男とその妻京子との間の二男。現在中学二年生。

相手方両名はその父松男が被相続人を殺害し、有罪判決を受けその判決は確定し相続欠格者となつたので、いずれも代襲相続人となつたものであるが、両名とも未成年者であるので、本件調停及び審判にはその法定代理人で親権者である父松男が終始出頭した(京子の委任状を提出の上)。

松男は前記の如く多年に亘り、相続財産を管理し、山林、畑には植林、補植、手入など、田地、田畑については開墾など多大の労力と費用を注ぎ来つたので、本件遺産分割については相手方等が現物の分割を受け、申立人等に対してはその代償としてそれぞれ法定相続分相当の債務を相手方等が負担する方法を切望している。

五、遺産分割に関する当事者の協議及び調停の経過

本件遺産分割については、申立人等より調停申立がなされて以来、裁判所(調停委員会)は、前記の如く被相続人木下次男が、長男松男(相手方両名の法定代理人、親権者父)より財産問題に関する紛争の結果殺害せられ、松男は昭和三〇年三月一〇日高松高等裁判所において右尊属殺被告事件につき、懲役八年に処せられこの判決は確定し服役した事情に鑑み、松男と申立人等特に本田久子とは被相続人の生存中より甚しく不仲で、右殺害事件の発生後、松男が約四年間服役の後仮出所して帰郷したところ、再び同人等の間に木下家の財産問題をめぐつて紛争があつたので(したがつて共同相続人間において遺産分割の協議はなされず、むしろ協議を持つこと自体が事実上不可能であつたと考えられる。申立人木下圭子は当裁判所の審問に対し、松男の出所後、生活の苦しさの余り遺産を分けて貰いたい旨懇願したが、松男は「全部俺のものだ」と称して拒否したと述べ、申立人本田久子は松男と遺産の分割につき円満に話し合える状態ではなかつたと述べている。)、遺産の分割をめぐる流血の惨事の再発を憂慮し、共同相続人間の感情の融和を計るため或は利害得失を説き条理を説いて説得に努め、又は相当期間の冷却、反省期間を置き、かくして相続人間の相互理解と互譲とにより条理にかなつた解決を、審判ではなく調停によつて達成すべく努力を重ねた。そのうちいく度か調停委員会の斡旋、努力により、当事者の互譲による調停が成立するかの如く見えたが(その経過については昭和三六年(家イ)第一八号及び同三八年(家イ)第一九号各遺産分割調停事件の経過表の記載参照)、相互の抜き難い不信、怨恨の情は依然として解消せず、結局は期待を裏切られる始末であつた。特に調停の最終段階においては殆んど本決定と同様の条件による調停が九分通り成立しかけたのであるが、この度も相手方等が現物の分割に代えて申立人等に支払うべき金員を、分割して支払をなすべき期間、並びにその間に民事法定利率による利息を附すべきや否やの二点について、意見の一致を見ず、いわば比較的重要ならざるこれらの条件に関して、互に頑固な態度を見せて妥協しなかつた結果、本調停は不成立に帰した。

以上のような事情であつて、当裁判所も本件調停申立以来相当の年月を経過したこと、当事者双方とも調停による円満な解決を熱望しているとは残念乍ら認め難いこと、従つて調停による解決を期待することは百年河清を待つに等しいと考えるに至つたことなどの理由により、止むを得ず調停を打ち切り、本件を審判手続に移行せしめた経緯にある。

六、分割方法とその事由及び分割の内容

叙上認定の如き被相続人の遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の職業(相手方等についてはその親権者の職業)、その他一切の事情を勘案し(特に各相続人の分割に関する希望を斟酌の上)、主文第一項乃至第三項記載の通りの分割方法をとつた次第である。右分割の方法によれば、相手方等は申立人等に対し、多額の債務を負担する結果になるが、同人等において負担に堪え得られないときは、分割された不動産(或は山林の植林等)を売却処分に付するより他はないであろう(当裁判所は山林地帯である地方の実情を考え、先づ換価することをしない)。しかし乍ら相手方等の親権者松男は、農業特に山仕事(植林等)を生業となし、しかも前記の如く永年に亘り本件遺産中山林は勿論山畑にも植林又は補植をなし、更に田、畑を開墾し来つたこと、申立人等はこれについては殆んど何等の寄与をなさず(その意思の有無についてはこれを論じない)、久子は既に他家に嫁して家庭の主婦となり、圭子は水商売に従事しているなどの諸般の事情を考慮し、主文第四項記載のとおり、その支払を一〇年間の年賦払いとするのが相当と認められるを以つて、相手方等は申立人等に対し連帯して、それぞれ本審判確定の時を第一回とし、毎年その日時に確定の時より年五分の利息を付し、その一〇分の一ずつを支払うべきものとし、審判又は調停手続費用の負担については主文第五項のとおりこれを定めるものとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 鍵山鉄樹)

(目録省略)

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